TBML: 課題の概要と解決方法をメモる(全訳)


英語の勉強も兼ねて、全文を翻訳してみた。相当つらい。原文は下記から。

TBML | A Big Picture View

This article is taken from the June 2021 Edition of Author: Tat Yeen Yap Financial institutions have a critical role to play in combating various financial crimes such as money laundering, terrorist financing, bribery and corruption, proliferation of weapons of mass destruction and breach of economic, financial and trade sanctions.

著者: Tat Yeen Yap

金融機関はマネーロンダリング、テロリスト資金供与、贈賄や汚職、大量破壊兵器の拡散、経済・金融取引規制の侵害といった金融犯罪への対策において重要な役割を担っている。法的責任、規制上の制裁、金融損失や金融犯罪の発見と防止に関して適用される法律や規制を遵守できない場合、レピュテーションへの影響による損失リスクに直面する。

金融犯罪のコンプライアンスは、金融サービスの提供者にとって避けられないリスクと捉えられているかもしれない。違反に対し厳しい罰則を金融機関に課すだけで、儲かることはほとんどない。しかしながら、金融犯罪への対策は、金融機関にとって報酬が勝るものでなければならない。金融システムの真正性は正当な金融取引を支える上で必須であり、全てのステークホルダーの責任である。

この記事では、“トレード・ベース・マネー・ロンダリング”(TBML)について詳細する。TBMLは金融活動作業部会(FATF)が「不正な出所もしくは活動に対するファイナンスを合法化するために、犯罪による収益を偽装し、取引を通じて移転するプロセス」として定義されています。FATFによれば、TBMLとその他の取引関連犯罪(例えば密輸)を区別しています。TBMLの目的は、モノというより資金の移動である。あらゆるTBMLスキームの第一目標は、取引を活用した違法な収益の意図的な資金移動である。

金融機関は、ファイナンスもしくは取引の支払を口実とした違法な資金フローの土管となっている。TBMLは輸入品や輸出品の価格、数量、品質を虚偽表示したり、存在しない取引を作り出すことで実行され得る。様々な方法があり、多めもしくは少なめに請求したり、多重に請求したり、少なめもしくは過剰に出荷したり、難読化(請求しているもの以外を出荷)したり、何も出荷しなかったりする。これらの事情があるため、貿易金融においては、取引が正真正銘であると確認できることが必須である。そうすれば、金融機関と金融システムがマネーロンダラーに利用される避けることが出来る。

TBMLリスクを考える上で始めに、恐ろしい事実をここで述べておきたい。犯罪組織グループ、プロのマネーロンダラー、テロリスト金融ネットワークなど犯罪を行う人(まとめて”シンジケート”と呼ぶ)は、金融システムを通じて麻薬密売などの犯罪収益を隠蔽しようとする。特に取引から得られる収益が銀行にとって魅力的で、かつシンジケートが価格に敏感でもない状況において、彼らが資金洗浄のために金融機関のサービスを利用しようとするとき、貿易金融に関わる銀行員はついついTBMLに目を瞑ってしまうかもしれない。

国連薬物犯罪オフィス(The United Nations Office on Drugs and Crime)によれば、グローバルでマネーロンダリングの金額を8,000億USドル(80兆円)から2兆USドル(200兆円)、全世界のGDPの2-5%と見積もっている。Think tank Global Financial Integrity(GFI)は、国連の貿易統計で報告された公式な政府データを精査し、膨大な”請求誤りのある取引”を見つけ出した。これは測定可能な不正金融フローの中でも最大規模の一つと考えられている。例えば、エクアドルが報告している2016年のアメリカ合衆国へのバナナの輸出は、20百万USドル(20億円)と報告されているしかし、アメリカはその年、エクアドルから15百万USドル(15億円)を輸入したと報告している。この年、二者間において5百万USドル(5億円)の不一致もしくは価格差が記録されている。取引の請求誤りは、輸入者と輸出者が、商品の記載価格を意図的に偽ることで発生する。輸入や輸出は、国境を越えた違法な資金移動、脱税あるいは関税逃れ、犯罪収益の洗浄、通貨管理の回避、海外収益隠蔽の方法である。GFIは、2008年から2017年の間、135の新興国、36の先進国において、8.7兆USドル(870兆円)の価格差異を見積もっている。

金融機関がファイナンスを提供したり、もしくは支払に関与する際に、商品価格を合理的に評価しており、これが金融機関がTBMLを検出する方法である。問題は、価格が合理的であるかを効率的にチェックするために、銀行は何を聞けば良いか、であるが難しい。

貿易金融とTBML管理

WTO(世界保健機関)によると、グローバルな取引の80-90%は貿易金融が支えている。国際取引は世界経済、貧困撲滅、国を跨る金融フローにとって重要や役割を果たしている。身近な貿易金融へのアクセスは国際取引が成功するための条件である。貿易金融は実体経済での資金であり、金融機関は、貿易金融を正当な借り手や申込者に提供しており、自らを公益のための存在であるとみている。TBMLへの対応は、金融システムとその提供者を犯罪の手助けとならないよう保護するために必須である。

ほとんどの銀行のTBML管理は、ドキュメンタリー取引に注力している。すなわち銀行が元となる取引に関する情報を含む書類を処理している。取引について多くの情報があるため、銀行にとってはかなり大変のように思える。なぜなら銀行は大量のデータを念入りに調べ上げ、請求誤りやその他怪しいものを発見しなければならないからである。銀行がオープンアカウント取引でファイナンスする際、典型的にはドキュメンタリー取引より少ない書類やデータを扱う。インボイスは運送書類のコピーとして含まれ、ある場合に必要とされるのはそれだけかもしれない。

オープンアカウント取引は貿易金融市場の大部分を占めている。ある見積もりによれば、グローバル取引の少なくともの80%はオープンアカウントで、ドキュメンタリー取引は20%以下にすぎないと言う。多くの企業が国際取引における信用状取引の利用を口にするが、信用状取引自体は減少しており(世界の貿易取引の多くが信用状やドキュメンタリー取立により仲介されていない事実がこの見方の根拠)、我々の認識ではオープンアカウント取引が増加している理由は、グローバル化を考慮すると、多国籍企業が過去数十年間で成長し、製造拠点のオフショア化が進み、製造ラインが先進国からコストの安い国に移転したためと考えられる。オフショア拠点で製造されたモノをグループ内で移動すると、それが国家間での輸出と輸入としてカウントされており、通商上、これらの関係者間でのシッピングはLCを必要とせず、オープンアカウント取引の増加に著しく貢献している。

フィンテック企業や貿易金融ファンドを含むノンバンクの事業体は増加傾向にある。このような資金の出し手は、しばしば銀行と同じレベルの規制対象にならない。TBMLへの対応に慣れていないかもしれない。しかしながら、ノンバンクの事業体は、特にオープンアカウント取引において、知らぬ間にシンジケートによるTBMLスキームにはまらないよう、銀行と同様に警戒が必要である。

TBMLに立ち向かうには業界横断アプローチが必要

BAFTは面白い数字を公表している。グローバルな支払手段のうち、取引決済のために使われている支払はなんと0.52%しかないと言う。少なくとも80%の取引がオープンアカウントであることを考えると、グローバルな支払のうち、ドキュメンタリー取引を示す支払は、たった0.1%しかない。銀行が懸命に行っているドキュメンタリー取引(単に銀行がチェックできるのは書類であるためであるが)に注力したAMLのモニタリングは、とてもじゃないが効率的とは言えない。この方法は、不正な資金の流れを特定・捕獲するために実装されているにもかかわらず、グローバルな資金の流れのうちたった0.1%しかカバーできていない。BAFTの調査結果では、TBML対応への負担は、銀行だけに偏ってはいけないと結論付けている。執行機関、政府機関や規制当局は、エコシステム・アプローチを採用するべきである。すなわち、異なる情報にアクセスでき、特定の役割を担う規制機関、税関や船会社のようなステークホルダーを巻き込み、一体となって問題解決に図るべきである。個々の機関や業界だけでは限界がある。エコシステムであれば見え方も変わり、より効率的に不正の検出が可能となり、より積極的に金融犯罪の防止を推進できる。

アジア太平洋金融フォーラム(APFF)のデジタル貿易金融ラボは、最近のプロジェクトにおいてBAFTの結論と推奨案を取り上げ、テクノロジーはその役割において、より効率的にTBMLを防止できると結論付けている。間もなく公表されるホワイトペーパーによると、ブロックチェーンや人工知能、プライバシー強化技術などの革新的なテクノロジーは、情報共有や課題克服のために活用できるとしている。このような技術は民間企業の情報共有に関わるコンプライアンス上の課題を軽減する可能性がある。技術の活用は、業界にとって、また業界を超えて必須と考えられる。多数の推奨案や規定手段が、APECメンバーの財務大臣に報告されてきた。これには標準化やセキュリティー、金融機関や事業会社へのデータの可視性などが含まれている。このようなデータは、金額、数量、原産地、仕向地、HSコード、商品の質/グレード、モデル/ブランドを含んでおり、データ共有は金融機関、政府(例えば税関)、物流会社、トレーダー、検査会社、テクノロジー企業とされるべきだ。

シンジケートを含むアクターによりAMLが実行されることを考えると、効率的なKYCサービスは金融機関にとって最初で(唯一ではないにしても)の防衛の要としての役割を果たす。KYCは金融機関にとって面倒なプロセスであり、またコストも掛かる。比較的新しい取り組みで徐々に注目を集めているのは取引主体識別子(LEI)である。LEIは世界中の企業に対しグローバルで唯一のアイデンティティーを提供するものだ。LEIは金融取引に参加する主体に唯一のアイデンティティーを提供し、主体の所有構造に関する情報を提供する。これにより、「誰が誰で」、「誰が何を所有しているか」が明確化される。

事業活動の透明性を向上させることで、LEIはカスタマーオンボーディングと信用調査プロセスに、より確信を持てるようになると考えられている。アジア開発銀行は、貿易金融の貸し手が、潜在顧客、海外の取引相手やサービスプロバイダーのアイデンティティーを検証することが出来る能力がLEIの利点であると明確に指摘している。AMLやCFTの効率性な実施により詐欺を減らし、「守りとしてのコンプライアンス」の事例を減らし、コンプライアンス活動における「誤検知」の事例を減らす。貿易金融におけるAMLとCFTの課題におけるパターン認識力を向上させる。LEIの利用はベストプラクティスとされ、必須ではないものの、世界中の貿易金融の参加者は、ドキュメントや取引データに出てくる登場人物の特定するため、透明性をより向上させる手段として利用している。金融機関が採用する業界横断のTBMLリスクの効率的なマネジメントは、顧客との紛争を減らし、より多くの顧客がより多くの貿易金融を利用できるようにするべきだ。

現実世界における疑われるTBMLリスク

筆者として経験談を共有したい。 シンガポールに商社の顧客がいた。その顧客は聞いたところによると、とあるコモディティーをインドに輸出する巨大なサプライヤーで、50%以上のマーケットシェアがあり、インドに数百のバイヤーを抱えていた。インドのバイヤーは、支払にユーザンス付きLCを利用しており、その勝者は東南アジアのコモディティーのサプライヤーからアットサイトでLCを購入していた。

トレーダーは筆者の銀行で与信枠があり、その商社のサプライヤーにLCを発行していた。これらLCの決済は商社の輸出LCのディスカウントから得られる収益により行われると考えられていた。輸出LCは他の銀行によりディスカウントされる。その商社は、リコース付き(リコースは発行銀行の許諾があると延期される)でこれら銀行に事前承認のディスカウント用与信枠を持っていた。

筆者の銀行がこの商社にLCを提供しなかった理由は、ドキュメントの精査なしのプレゼンテーションでディスウントを要求する彼の要望に銀行が対応できなかったからだ。トレーダーは、口約束でのアレンジを要求し、経験上ディスクレは起こりえないと主張した。そのコモディティーを欲しがっているインドのバイヤーなら、ディスクレは見逃すはずだと(トレーダーの独占的マーケットポジションを考慮すれば)。

加えて、チャーター船の到着が迫っており、ドキュメントをすぐにでも発行銀行に転送しないといけないプレッシャーが常にあった。当時、筆者の銀行は発行されたLCの決済手段の方法が変更されていることに気付いた。支払は香港の銀行から受け取ることになっていた。問い合わせてみると、その商社は、インドのバイヤーは支払に香港のエージェントを使っているとのことだった。筆者の銀行は最終的にはその商社との関係を断つこととした。なぜなら取引には曖昧な部分が多く、説明が困難であったためだ。この商社は最近、大規模なグローバルコモディティー商社との取引に関連して、金融取引の詐欺疑惑があるとされている。

他にもこんな話がある。筆者が勤めるシンガポールの銀行は、北アジアからの金額の大きいLCをディスカウントしたいという訪問者に紹介された。その人によると、発行銀行は、LCは100%キャッシュで裏付けされているからノーリスクだと言う。また輸出者(受益者)は買取銀行の手数料をそれほど気にしていないと言う。筆者の銀行は十分に承認できる余力はあったものの、お断りすることにした。なぜならその訪問者にLCの裏付けとなる取引にについて質問したり開示をお願いすると、歯切れが悪かったからだ。これらの話は、銀行が完全な透明性がないまま顧客の取引を評価しようとする際に、直面する実際の難しさについて説明するための例として挙げた。銀行はしばしば、取引についての質問に対する回答の「信憑性」に基づいてリスクを評価しなければならない。貿易金融の提供者は、顧客側に発生するあらゆるリスク(信用、コンプライアンス、詐欺その他)に精通し、定期的に継続的にそのようなリスクを確認しなければならない。

より効率的なTBMLコントロールに向けて

TBMLリスクの軽減に向けた施策としては次のものがある。

  • コンプライアンス要件について金融機関のスタッフに向けた教育とトレーニング。規制当局からのガイドラインやガイダンスに基づくコンプライアンス文化の導入
  • オンボーディング前に顧客とそのオーナーを検証するためのKYC(オンボーディング後の定期的なレビュー)とAML/CFTリスクを評価するためのカスタマー・デューデリジェンスの効率的な実践
  • 裏付けとなる取引が真正であり、適用法令を違反していないかを検証するための取引のスクリーニング、レビュー、モニタリング

マネーロンダリングは言ってしまえば支払の問題である。なぜなら資金の移動によって行われるからだ。TBMLの注意点は、したがってドキュメンタリー貿易金融取引の範囲を超えて考えなければならない。なぜならドキュメンタリー取引の支払は関連する支払全体のたった数%にしか過ぎないからだ。オープンアカウント取引におけるTBMLのリスクはかなり高い。結果として、効率的な解決策に向けた方法は、官民連携であったり、民間のデータ共有であったり、テクノロジーの活用や金融機関と事業会社によるLEIの要求であったりと、業界レベルの内容になってくる。

金融機関の従業員は、それぞれの分野でTBMLリスクの最前線で働いている。TBMLへの対応は、あらゆる役割(フロントオフィス、オペレーション、与信管理、リスク管理、コンプライアンスそして内部監査)を担う従業員の責任であることを認識しなければならない。マネーロンダリングは、金融システム全体に拡がる問題であり、貿易金融だけに限定するものではない。貿易で実際に利用可能なデータ量(現在はサイロ化されているが)、プライバシーを保護した方法でのデータ活用は、TBMLコントロールをより効率的にできる可能性があり、そうすれば貿易金融におけるマネーロンダリング・リスクを低下させることが出来る。

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